パンプスとスニーカー
 「…………うん」




 派手な女性関係が噂されるわりに、そうした悪い噂をほとんど聞いたことはなかったから、おそらく本当のことなのだろう。


 もちろん、妬み混じりの悪評はそれなりにあるが、毎回違う相手をぶら下げていた時にしても、相手もそれなりに噂にされるような人物ばかりだ。


 …それに、あくまでも噂は噂だし。


 ひまりにだって偏見がないとは言えない。

 
 けれど、こうして向き合ってみれば、武尊もまた、それまで…彼とこうして一緒に暮らして友人となり、恋人同士になるまで抱いていた印象とはまるで違った。


 もちろん、いいところばかりではない。


 それでも…。


 信号が赤に変わった。


 停車した車のハンドルにわずかの間、顔を伏せ、武尊がポツリと呟きを落とす。




 「…ホントさ」

 「うん?」

 「ひまが初めてなんだ。…自分のテリトリーに女の子を連れて来たり、刹那的な付き合いだけじゃなく、いろんなことを一緒にしてみたいって思った子って…」




 伏せた横顔がわずかに赤い気がして、ついジッとそんな彼の端正な美貌に見入ってしまう。




 「…そんなにジロジロ見ないでよ」

 「あ…ごめん」

 「いいけど。俺…めっちゃ変な顔してない?」

 「え~?」




 …相変わらずカッコイイと思うけど。って、言うか可愛い?


 もちろん、そんなことを言ってしまえば、武尊が気分を害してしまうことはひまりもわかっているので、曖昧に微笑むに留めた。




*****



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