パンプスとスニーカー
 なんだかんだで、武尊のマンションに到着した頃には、0時も回りかけていた。




 「は~、マイッた。まさか、平日に事故で渋滞にハマるとは」

 「そうだね」




 居間に入るなり、武尊が着ていたコートを無造作にソファに投げ、ドサッと深く腰を下ろす。


 ひまりもそれなりに疲れていたが、武尊の比ではないだろう。


 壁際のコート掛けからハンガーを手に取り、ソファに投げ出されている武尊のコートと一緒に自分のコートもかける。



 「あ、ありがと」

 「ううん」




 律儀にお礼を言ってくれる武尊に微笑みで返す。




 「ごめんね、あたしを案内したり、ずっと運転したりで疲れちゃったよね?」

 「何言ってるんだよ。そういうことではあやまらない」




 目に疲労がきているのか、目やこめかみのあたりを抑えていた武尊が顔を上げ苦笑する。




 「ひまも疲れただろ?」

 「全然だよ」

 「エレベーターで上に上がってくる時、足、ちょっと引き摺ってたじゃん?」

 「…あ~」




 相変わらず目敏い。


 歩き疲れた足はすっかり浮腫んでしまったようで、車に乗車中、歩かなくてすむのは良かったが、脱いでいいよと言われてもさすがにそれは抵抗があって無理をした結果、かなり疲労が増してしまっていた。




 「靴ズレしちゃった?」

 「それは平気」

 「…ホント?ひま、けっこう無理するからな」




 読まれている。




 「でも、やっぱりまだパンプスは、履き慣れてないからちょっと辛かったかな」

 「そっか」




 オシャレなパンプスが似合う…武尊がいつも一緒にいるような大人の女の人になりたいと思ったけれど、そう一朝一夕にはいかないらしい。


 …まあ、もともとの素材っていうか、キャラ自体が違うんだけど。




 「ん~、じゃあさ、次回はスニーカーで大丈夫なところに遊びに行こうか」

 「え…うん」




 そう言ってくれる武尊の気持ちが嬉しい。




 「ブーツとかもっと楽な靴も、また買ってあげるよ」




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