パンプスとスニーカー
 焦って言えば言うだけドツボにハマってしまっている。


 ひまりにしても松田の好意は嬉しくても、とても受けられる類のものじゃない。




 「松田君を信用していないってわけじゃないんだけど…」

 「だから、違うって!いくらなんでも、俺の部屋に武藤を誘ったりするかよっ!?」

 「…それって」

 なんとか冷静さをかき集めたらしい松田が女二人の視線を受け、真っ赤な顔のまま、それでもなんとか憮然とした顔を作って、両腕を組んで椅子にふんぞり返った。




 「実家。俺んち、千葉に実家があるだろ?いい年した男が、実家暮らしっていうのもサマにならないから、こっちで一人暮らししてるけど、実家からだって大学に通えないわけじゃない。…まあ、多少通学時間長くなるけどさ」




 言いたいことはわかった気がした。


 しかし、と美紀を見れば、肯定でも否定でもなく、曖昧な顔で首を傾げて両肩を竦められる。




 「武藤が来るなら、俺も一時的に実家に戻るし、遠慮するなよ」

 「…でも」

 「うちなら、気兼ねしなくても大丈夫。武藤んところと同じで、兼業農家だから、家屋敷だけはけっこう広いし、親戚が一緒に住んでるから人は多いんだ。武藤の一人や二人増えても、家族は気にしないから遠慮するなよ」




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