パンプスとスニーカー
 「あ、じゃあ、俺、講義始まるから後で」




 3限目が休講になったひまりと美紀を置いて、松田が席を立った。


 戸惑いつつ松田に手を振り、ひまりが言葉を探す。


 が、その言葉が見つかる前に、美紀に問いかけられてしまった。




 「で?武藤ッチ、マジでマツの実家に間借りするわけ?」

 「えっ!?いや、まさか、そんなわけには…」




 ありがたい話ではあるが、ひまりの常識の範囲ではない。


 美紀も頷いてくれる。




 「だよね。あいつはイイ奴だとは思うんだけどさ、気持ちも固まってないのに、あいつんちに泊まるのは微妙~」

 「それって…」




 …爽やかそうな外見しているけど、もしかして松田君って??


 なにげに失礼な疑惑を持ってしまう。




 「あれ?もしかして、いろいろ渦巻いてる?」
 
 「…いや、だって、ほら?」




 何がほらなんだか、自分でも言葉に詰まった。




 「いくらなんでも、家族のいるところで襲われたりはしないと思うよ」

 「……ッ!?」

 「て、いうか、武藤ッチって、なにげに鈍い?」

 「ええ?」




 困った顔の美紀が何を言いたいのかわからない。

 鈍いか鈍くないかと言われれば、子供の頃からはしっこいと呼ばれこそすれ、鈍いと言われた覚えはなかった。




 「け、けっこうスポーツは得意だけど」

 「ガクッ」




 わざわざ口で言うところが、微妙にイヤミだ。




 「そうじゃなくってさ、まさかまさかとは思ってたけど、ぜんっぜん、気が付いてなかったんだぁ」

 「………」

 「あたしが言うのも本当は反則だけど、こういう事態だから行っちゃうね」

 「うん?」




 なんだか歯に物が挟まったような言い方が、美紀らしくない。


 ヒョイヒョイと手で招き寄せられ、顔を寄せれば耳元で内緒話。




 「マツって、武藤ッチのことが好きなんだよ」





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