ティアラ
「ひとりぐらい、あたしに回してほしいもんだわ」

男子との会話を聞いていたのだろう。

靴箱へ向かうまでの間、直子は口を尖らしながらブツブツ言う。

彼女の本心を知っているあたしは、その発言をいつもと同じようには流せなかった。

返す言葉が見つからず、苦笑いだけを返してしまう。

そんなあたしをおかしいと思ったのか、直子は珍しく深町の話題を持ち出してきた。

「予定が入ってるって言ってたけど、それって……深町のこと?」

まだそんなことをやってるのか、とでも言いたそうな表情。

そんなことを一欠けらも考えていなかったあたしは、顔を上げて首を横に振る。

さっきは断るために、適当な理由を作っただけ。

別に、深町に仕返しをするから断った、ってわけじゃない。
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