窓ぎわ橙の見える席で


会場であるパレスロイヤルホテルは、駅から歩いて10分ほどの場所にある。
立地としてはものすごくいいわけじゃないんだけど一応全国的にも高級ホテルで通っているホテルで、ここで結婚式を挙げたいって思ってる女の子も多いはず。
重厚な造りの外観もそうだけど中もかなり立派で、入ってすぐに高い天井から大きなシャンデリアが目に入って「おお!」と思わず声を上げるほどだった。


大階段もあるし、赤い絨毯も敷かれているし、インテリアとして置かれている陶器もいちいち高価なものに見えてきて。
前の職場を思い出す。


フロントの脇のスペースに海明高校の幹事たちが受付を設置しており、受付をする人たちで列をなしていた。
その列の最後尾に私とてらみも並ぶ。
中には見たことのある顔がチラホラ。まさに同窓会だ。


「で?肝心の変態くんは?」


てらみがお財布から会費を取り出して準備しながらちょっと偉そうに聞いてくる。


「変態くんじゃなくて、変人くん」

「どっちも同じでしょ。彼はもう来てるのかしら?」

「遅れるって連絡は来てないけど……」


携帯を確認して、メールや着信が無いことを伝える。
よっぽど辺見くんに興味があるのか、てらみは「あとで紹介してね」と笑っていた。


私は先月、辺見くんに抱きしめられた。
それは紛れもない事実なんだけど、てらみには報告していない。
だって言ったらスキップでもしながらからかってきそうなんだもの。言えるわけがない。


それに、彼にとってあの行動に深い意味は無い。
自分が疲れている時に猫を抱きしめて眠るように、私が疲れていたから抱きしめてくれたというだけのこと。
たったそれだけのことで騒ぎ立てるほど、純粋でもないのだ。もう私たちは今年30歳になる、酸いも甘いも大体は知り尽くした立派な大人である。


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