窓ぎわ橙の見える席で


バタバタとコンクリートで舗装された歩道を駆け抜け見慣れた住宅地を通って、木造の築25年の家に飛び込んだ。
履いていたローヒールのパンプスをぽいぽいっと脱ぎ捨てて、それらは玄関に散らばる。でも直さない。心に余裕無し。


「あ、つぐ〜。おかえり」


お風呂上がりだからなのか、お酒を飲んでいたからなのか分からない赤ら顔のお父さんが物音に気づいてリビングから出てきた。
私はそれを「うん」という微妙な返事だけ返して、1階はスルーして2階の自分の部屋を目指して階段を駆け上がり、そしてそこへ飛び込んだ。


バッタン!と大きな音を立てて引き戸を閉め、押し入れを開けてダンボール箱を引っ張り出す。
そこには、高校卒業までの写真を貼り付けたアルバムとか、当時大流行していたプリクラをまとめたプリ帳と呼ばれるものなど、大量に入れてあった。
そこから分厚いアルバムを3冊取り出した。


小中高、それぞれの卒業アルバムだ。


小学校のアルバムを開く。
手早く焦るように1ページずつ捲り、何度かクラスの個人写真のページを行ったり来たり往復したあとに見つけた。


『辺見甚』という名前のすぐ上で一重の目を細めてヘラッと笑うあどけない表情の、ほぼ坊主頭の男の子。
うん、これは覚えてない。


次は中学校の卒業アルバム。
同じように何度かクラスの個人写真のページを捲り、さっきよりも早く見つけた。


『辺見甚』という名前のすぐ上で、小学校の時とは打って変わったようなマッシュルームカットみたいな髪型で、やっぱりヘラッと笑っている。
でも顔はどこかあどけない。
うん、これはなんとなく覚えてる……かも。


次に高校の卒業アルバムに手を出す。
確か高3の時は隣のクラスだったはず。
3年A組のページに目を配り、『辺見甚』はすぐに見つかった。


あどけなさは消え去り、普通に大人びた顔つきになっている。
だけどヘラッと笑う表情は小学校の頃から変わらず、髪型は爽やかとは無縁のボサボサした伸ばしっぱなし。今現在の彼とあまり変わりない。


今とこの頃と違うのは、今の方が痩せているということ。
そして、私の記憶よりも今の方がなんとなく身長もやや伸びたような?
きっと私の記憶は高2で止まってるから、彼の成長期は高校生の間続いていたのだとしたら納得がいく。


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