私は、エレベーターで恋に落ちる
「それで?弁護士の先生に、どうしろって言われたんですか?」
彼は、いかにも面倒くさいという様子で言った。
「まあ、君の機嫌をとって、妙なマネはしないように気を付けてくれって」
「気を付けるって、どうんなふうにですか?」
「そんなこと、思いつくか」
確かに。
そうでしょうね。
私は、彼が何も言わないうちに先手を打っておく。
「別に、何もいりませんよ。欲しいものも、あなたにして欲しいこともありませんから」
伊村さんは、そうか意外だな、と言ってから付け加えた。
「エレベーターでずるしようとした割には、欲がないじゃないか」
私も意地になって答える。
「好きでもない人に、何かして欲しいなんてないし、今だって会社の命令でここに居るだけなんだもの」
「そうかい。分かった。分かったから、無駄話は終わりだ。じゃあ、行くぞ」
すでに、気持ちを切り替えた見たいに歩き出した。
「行くって、どこへ?」
「今の時刻は、12時35分。最初にアッパークラスのエレベータに乗ったのは、3週間前の同じ水曜日の12時54分だ。そろそろ下に行くぞ」
「下に行って何するのよ」
「何するって、同じことをしてもらうのさ」