対象外でも恋咲く
弘人は俯きがちになっていた瞳の顔を覗き込む。突然近くに来た顔に瞳は、肩をビクッと揺らす。

二人は合った視線を逸らすことが出来なかった。弘人は、吸い寄せられるようにさらに近付くが……


「お客さーん、この辺りですか? もう少し行きます?」


空気を読まないタクシーの運転手の声が聞こえ、現実に引き戻されたかのように二人は離れて、前を向く。

ここは二人だけの世界ではない。運転手も一緒にいる世界だ。


「あ、そこの茶色いマンションの前で止まってください」


瞳の返事と同時にタクシーが止まる。危うく通りすぎるところだった。

開いたドアから片足を外に出した瞳が振り返る。


「小沢くん。どうする?」


「今日の俺は酔ったらヤバい気がするので、やっぱりやめておきます。おやすみなさい」


「あ、うん。おやすみなさい」


今夜、何かが起こる? と考えてしまっていた瞳は、弘人を乗せて去っていくタクシーを見送って、大きく息を吐いた。
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