次期社長の甘い求婚
すれ違う人達の視線を感じるたびに、我に返っていく。


「じっ、神さん! 下ろしてください!!」

「無理。つーか下ろしたってまともに歩けないだろ?」


すぐに却下され、最もなことを言われては口籠ってしまう。


その間も神さんは足を進める。

私を抱き上げているくせに、呼吸も乱さずに。


身体の線は細そうに見えるのに、意外と力があるんだ。


そんなことを考えながらも、至近距離にある彼の横顔を見つめてしまう。

真っ直ぐ前を見据えた姿――。


なぜかその姿にキュンとしてしまった。


軽々と女子憧れのお姫様抱っこしちゃうなんて、本当に神さんってばどこまで王道ヒーローなのよ。


高鳴る鼓動を誤魔化すように悪態をついてしまうも、次第に神さんが歩くたびに揺れる心地よい振動に、瞼が重くなっていく。


やだ、どうしてこのタイミングで眠くなっちゃうわけ?

さっきまで気持ち悪くてフラフラだったくせに。

それなのに、いまさらアルコールが回って睡魔が襲ってきてしまうなんて。
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