次期社長の甘い求婚
本音を漏らせば、亜紀の表情が少し変わった。


私は別にそこそこの賃金を貰えて、過酷な労働を強いられない職場ならどこでもよかった。
ここに決めたのは、あの人に言われたからだ。

そうでなかったら、苦労してまでここに入社しなかった。


「その話題は終わりにしようか。……でないとあんたの午後の勤務に差し支えそうだし」

「……うん」


亜紀に言われ、頭の中からあの人の存在を抹消した。

でないと亜紀の言う通り、いつまで経ってもウジウジしてしまいそうだ。


「私が美月の立場だったら、あんな冴えない眼鏡はさっさと忘れて、ひと時の恋だとしても恭様の求愛を受け止めちゃうけどなぁ」


すっかり冷めてしまったパスタを器用に巻きながら口に運ぶ亜紀の話に、到底頷くことなどできない。


「私の事情を全部知っている亜紀が、それを言っちゃうんだ?」


亜紀に嘘はつけない。
だから亜紀は、私の全てを知っている。


少しだけ鋭い目線を送れば、亜紀は眉を下げた。


「……知っているから言っているのよ」
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