次期社長の甘い求婚
日本庭園が望める廊下を進むも、後を追い掛けてくる気配はない。

あそこまではっきり伝えれば、さすがに納得してくれただろうか。


料亭を後にし駅まで向かう途中、何気なく夜空を見上げてばどんより曇り空。

そういえば夜遅くから雨の予報だったっけ。


今日の話を亜紀にしたら、きっと呆れ返っちゃうんだろうな。


「なんて勿体ないことしたの!?」って怒られちゃいそう。


亜紀の言動を想像すると自然と口元が緩んでしまう。


自分でも正直バカな判断したかもって思う。

だって平凡に生きる中で、私みたいな庶民があ~んな御曹司様に好かれる機会なんて、これが最初で最後だったと思うし。

今まで苦労してきた分の幸運を神様が与えてくれたのかもしれない。


でもね、幸せをくれるのなら、もっと違う幸せがよかった。

平凡で何気ない小さな幸せでよかったんだ。


例えば鈴木主任には最初から恋人がいなかったとか、うまくいかず婚約者と別れちゃうとか。


「……いやいや、他人の不幸を望んだらダメでしょ」


思い留まり、フッと笑いながら自分自身に突っ込みを入れてしまう。
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