毒舌王子に誘惑されて
ベージュのトレンチコートを羽織った大井アナがマンションのエントランスから出てくる。
遠目だからはっきりとはわからないけど、部屋着風だった前回よりは明らかにお洒落をしているように見えた。

大井アナはバッグから携帯を取り出し、会話をしながら足早に歩き出す。
おそらく、かかってきた電話に出たんだと思う。

「もしかして、今日こそ・・・」

私の言葉に葉月君もうなづく。

「アタリかも知れないっすね」

私達は気づかれないようにそっと車をおりて、大井アナの後を追う。

「ね、電話の相手って京堂かな? 声が聞こえるとこまで近づけない?」

大井アナは今も電話を続けていたけど、この距離じゃ何を話してるのかさっぱりわからない。

「是非とも盗み聞きしたいとこですけど、そんな近づいたら怪しまれーー」

葉月君はそこで言葉を止め、私をじっと見つめる。

「なに? どうしたの?」

質問には答えず、葉月君は私の肩をぐっと引き寄せた。勢いあまって、葉月君の首筋に顔が埋もれる。

ふわりと柑橘系の爽やかな香りが鼻をかすめた。


ーー男の癖に、何でこんないい匂いがするのよっ。

心の中でそう悪態をついた。

華奢だと思ってたのに、意外と筋肉質な腕や胸が妙に生々しい。

早まりそうになる鼓動を必死に抑えて、
頭を仕事モードに切り替える。
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