毒舌王子に誘惑されて
それに関しては、葉月君の言う通りなんだろう。 不倫カップルならまだしも、独身芸能人同士の爽やかなデートだって邪魔するのが私達の仕事だもんね。

この仕事をしている人なら、多かれ少なかれ誰もが悩むところだと思う。


その時だった。 私達に気づいてなかった筈の大井アナが突然くるりと振り返り、こちらに向かって歩いてくる。

「やばっ」

葉月君の小さな叫びが聞こえたかと思ったら、次の瞬間にはぎゅっと抱きすくめられていた。

私の背中に回された葉月君の両腕にぐっと力がこもるのを感じる。
抗議の声をあげたくても、私の顔は葉月君の胸にきつく押し付けられていて、それもできない。


ここまでは我慢した。
我慢できた。

けど、葉月の唇が私の首筋に触れた瞬間、私は我慢しきれずに声をあげてしまった。

「い、いやっ」

「ちょ、美織さん。 声でかいって」


葉月君が慌てて、私の口を掌で塞ごうとしたけど遅かった。
不審に思った大井アナが私達に背を向けて走り出したのだ。

「逃げられたっ。 追っかけるよ」

葉月君は私の身体を解放して、すぐに走り出す。

「えっ!? ちょっと待ってーー」

慌てたのと、暗くて足元がよく見えなかったせいで私は側溝に足を取られてバランスを崩した。


「わっ、わ、わ、わ」


ーーズシン と派手な音を立てて、尻餅をついた。


「うぅ。 いたた・・」


ぶつけたお尻も痛かったけど、それ以上に右の足首に嫌な違和感を感じた。

無情にも大井アナの背中はどんどん遠ざかっていく。
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