毒舌王子に誘惑されて
ズキンズキンと鈍い痛みを訴える右の足首におそるおそる目を向ける。


「えぇーー!?嘘でしょ・・」


赤く腫れた足首より衝撃のものが目に飛び込んできた。

お気に入りのフェラガモのパンプスのヒールが・・・


「折れてる・・・・」

しかも根元から取れたのでなく、真ん中から割れてしまっていた。

頑張ろうって気合いを入れるために履いてきた靴のせいで大事なチャンスを逃すなんて、ひどい皮肉だ。


「あーあ。こりゃ修理とかも無理そうですね」

葉月君が折れたヒールを拾いあげて、ゆっくりと私の正面にかがみこんだ。
俯いた私の顔を覗き込むように、顔を傾ける。


「そんな泣くほど大事だったんですか?この靴」

葉月君の言葉に私は弾かれたように顔あげて、手の甲で頬をぬぐった。
私の頬は乾いていた。


「ーー泣いてなんかないじゃない」

私がそう言うと、葉月君はぷっと小さく笑って指先で私の唇をなぞる。

「だって、唇噛み締めて涙を堪えてるからさ」

言われて初めて、血が滲むくらいにきつく唇を噛み締めていたことに気がつく。

「ーー葉月君は大井アナを追いかけていってよかったのに。 せっかくのチャンスだったのに・・」

情けなさと悔しさから、子供じみた八つ当たりを口にする。

葉月君は小さく息を吐くと、困ったような顔で苦笑する。

「いくら仕事の為でも、こんな時間に怪我した女の人放置するほど俺は鬼畜じゃないですよ」

葉月君らしくない優しい声に張り詰めていた気持ちの糸がプツンと切れてしまった。
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