毒舌王子に誘惑されて
「ーーもうっ。 なんで、こんなにうまくいかないんだろう」

思わず口にしてしまった弱音とともに、涙が一滴溢れ落ちる。


「これね、この靴が似合うような仕事のできる女になりたいって思って買ったものなの。 それがこんなタイミングで壊れるなんて、神様に愛想つかされちゃったみたい・・・」

何もかもうまくいかなくて、それでも頑張ろうって思ってたのに神様はちっとも優しくない。

「気合い入り過ぎでダサいって思われても、この靴は仕事する私のプライドだったんだもんーー」

溢れ落ちた涙が冷たいコンクリートに染みを作る。

お気に入りの靴がダメになったくらいで何を泣いたりしてるんだろう。

頭の半分ではそんな風に冷静に考えられるのに、もう半分はひどく感情的で手がつけられななかった。


独り言めいた私の愚痴を葉月君は黙って聞いている。
いっそのこと、いつもみたくババくさいって笑い飛ばしてくれたらいいのに。


「まぁ、女の人には俺にはわかんない色々があるのかも知れないですけど・・」

葉月君がパーカーの袖で私の頬をぬぐう。私は幼い子供のように、されるがままになっていた。


「けどさ、美織さんの価値を決めるのはフェラガモの靴じゃないでしょ?
どれだけの人が記事を読んでくれるか・・ですよね」

葉月君は立ち上がって、大きく伸びをした。そして、私に向かって手を差し出す。
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