毒舌王子に誘惑されて
「な、な、何言ってるの? すぐそんなこと言ってからかおうとして・・」

「いや、マジな話。 タガが外れるとヤバいんで」


ーー本気にしました?

そう言って笑ってくれるのを待ってたのに、いつまでも言ってくれないから私はタクシーに乗ってる間も一言も口をきけなかった。

それどころか、呼吸の仕方を忘れたみたいに息も出来ずにいた。

葉月君も無言で窓の外を見続けていた。


タクシーは都心の夜景の綺麗なエリアをいくつも通り抜けたけど、私の頭は無礼者でソリの合わない後輩の事でいっぱいで、ちっとも目に入らなかった。


息苦しい時間が終わりタクシーが私のマンションの前で止まった時、私はようやく口を開いた。


「あの・・わざわざ送ってくれてありがとう。せっかくのチャンスを逃しちゃって、ごめんね。今度なにかお詫びするから・・」

相変わらず葉月君の顔が見れなくて、彼のパーカーの首元あたりに視線を固定していた。

「んじゃ、お詫びとして来週の土曜日、俺とデートしてください。 仕事は一番落ち着く時期だし、美織さんどうせヒマでしょ?」


デート?
今、デートって言った?

自分の耳を疑った。 予想外の異動といい、最近私の耳は災難続きだ。

「や、ヒマはヒマだけども・・」

気が動転するあまり予定がないことを暴露してしまう。

「じゃ、決まりですね。12時に六本木のミッドタウン側の改札で」

葉月君は仕事の報告のようにさらりと告げた。 見てないから、どんな顔をしてるかはわからない。

「やっ、でも、そんな簡単に・・」

「嫌だったら来なくていいですよ。
適当に待って来なかったら、帰りますから」

もごもごと言い訳する私を遮って葉月君はそう言い放つと、止めていたタクシーに乗り込んで走り去ってしまった。
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