毒舌王子に誘惑されて
「編集長。申し訳ないんですけど、今日は俺も帰ります」

葉月君までもがそんなことを言い出したせいで、編集長は子供みたいに口を尖らせ、ぶーぶー文句を言っている。

「まぁまぁ。ほら、今時は無理に飲みに誘うとパワハラで訴えられちゃう時代ですし、潔く諦めましょうよ。編集長」

そんな風に佐藤さんに宥められ、しぶしぶ二次会のお店へと向かっていった。


・・佐藤さんて、理解不能な服の趣味と重度のアイドルオタクなところ以外は、至って常識人なのよね。

オタクだから変な人って決めつけたらダメだなぁ。

私は妙なところで感心する。



うるさい酔っ払い集団がいなくなり、気がつけば葉月君と二人きり。


「帰んないんですか?」

立ち止まったままの私に葉月君が声をかける。

「えっ。帰る、帰るよ」

駅までの道を、並んで歩き出した。


別に何か悪いことをしたわけでもないのに、妙に気まずい空気が流れる。

うぅ、電車も途中まで一緒なんだよね。

かと言って、今さら別々に帰るってのもおかしいし・・


「さっきの男・・」

葉月君がそう話し出した時、私の肩はびくっと大きく跳ねた。


「もしかして、三条商事ですか?」

「なんで、わかるの?」

まさかの大正解に私は心底驚いた。
裕司が社章でも付けてたんだろうか。


「あの人も一緒にいた人達もみんな日焼けしてたから。この季節に日焼けって海外行く人くらいでしょ。
この辺の会社で海外出張が多いって条件だと三条商事かな〜って」

「なるほど・・すごいね」

私は素直に賞賛の声をあげた。

天性なのか職業病なのかわからないけど、すごい観察眼と洞察力だと思う。

考えてみれば、葉月君はいつもそうだ。
適当そうに見えて、誰よりも冷静に状況を読む。

どんなに取り繕っても本心を見透かされしまうから、初めて会った頃はイライラしてばかりだった。
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