恋に目覚めたシンデレラ
今までここに立っていてこんな風に訊かれたことはない。
「先程からずっとこの絵の前に立っていて動こうとしないので、そうなのかと?」
もしかして美術館の人?
今まで話しかけられたことはなかったけど邪魔だとクレームがあったのかもしれない。
つい夢中になって見ていたから。
「すみません邪魔になってましたよね。直ぐに退きます」
「いえ、そうではなくてこの絵も素晴らしいですが他にも素晴らしい物があるので廻って見られたら良いかと思ったのですが……」
「直ぐに移動します」
「待ってくださいっ」
呼び止められて足を止めた。
「良かったら案内します。ここへはよく来ていて何度も回っているんです。だから、ここの館員と同等に案内出来ると思いますよ」
「美術館の館員さんではないんですか?」
「違います。ただ前の館長とは縁続きで度々ここには来ています」
「そうなんですか……」
「葵さんっ。探したんですよ。まだそこから動いてなかったんですか?」
「沙織ちゃん」
「そちらはお友達ですか?」
「会社の後輩で今日は一緒に来たんです」
沙織は黒ぶち眼鏡の男性に会釈をした。
「葵さんごめんなさい。急に彼から逢えるようになったからって連絡来たんです。帰っても良いですか?」
「そうなんだ良かったね。私はもう少し見てから帰るから気にしないで」
「本当にすみません」
沙織は帰っていき残った葵はさっきの男性がまだ近くに居たことに気付いて「大丈夫です。一人で回ります」と断った。