夏の嵐と笑わない向日葵
チュッ
そして、小さくなるリップ音と共に、嵐君の唇が離れていった。
そのまま、嵐君を見上げるような形になる。月光の影になって、嵐君の、表情があまり見えない。
「やっぱり、好きだな……」
「え……?」
ただ、嵐君はそう言って、指先であたしの顔の輪郭をなぞる。
「向日葵の笑った顔」
「なっ……恥ずかしい事、言わないで」
あたし、そんなに笑ってた?
あ、でも……嵐君の前では、笑ってた気がする。
「その顔が見たくて、俺は……」
感傷深く、切なげにあたしを見つめる嵐君に、あたしまで胸がキュッと締めつけられる。
「嵐君が、取り戻してくれたんだよ…」
「え…?」
あたしの言葉に、嵐君は目を見開く。
あたしは、嵐君を見上げて、笑った。
「忘れてしまった感情を思い出させてくれたのは、いつだって嵐君の言葉だった」
嵐君と出会わなかった自分を想像すると、すごく怖い。
きっと、ただ生きてるだけの人形のままだ。
「嵐君が好きだと言ってくれるから、きっと自分を好きになれると思う」
「何度だって言ってやる。俺は、向日葵が好きだ」
そう言って口づけてくれる嵐君に、身を任せる。
あたしも、何度だって想うよ。
嵐君が、本当に本当に、大好きです。
ドーンッ、ドーンッ
遠くで、花火の上がる音が聞こえる。
夜空に咲く大輪の花はすぐに散ってしまうけれど、この想いは、永遠に消えないだろう。
また近づく嵐君の気配に、感じる甘い予感。
それを受け入れるように、そっと、瞳を閉じた。