夏の嵐と笑わない向日葵
そして、高校3年生の夏。
ホームルームを受けながら、あたしは窓から見える青空を見上げていた。
「夏休みは、自分の進路をじっくりと決める、唯一の期間だ。遊んでばっかいないで、しっかり考えろー」
進路……。
そんなの、何も考えてなかったな。
「読書感想文に古文のレポートと課題は山ほどあるからなー!ちゃんとやってこいよー!」
担任の先生の声が遠くに聞こえる。
明日、7月21日から夏休みになるから、課題の説明でもしてるんだろう。
早く、ホームルーム終わらないかな。
帰ったら、ノラと向日葵畑にでも行こうかな。
そう、家の裏には、おばあちゃんが育てていた向日葵畑がある。あたしは、そこがお気に入りだった。
「起立、礼」
「ありがとうございました」
そして、いつの間にか終わったホームルームに、あたしも鞄に配られたプリントやら課題やらをしまう。
「加島、夏休みは……その、どこかに行くん?」
「え…?」
学校で、誰かに話しかけられたのは久し振りだった。
あたしは、中学1年生まで東京にいたせいで、方言がない。皆があたしを変な目で見ていたのを覚えてる。
学校でもあまり話さないし、笑いもしないから誰も話しかけてこないんだけど…。
確かこの人は…。
「勝俣君……ううん、どこにも行かないけど」
勝俣 悠生、クラス一頭が良くて、顔もいいから女の子達に人気の男の子だ。
物静かで口数も少ないから、女の子達は勝俣君を遠目に見ている。
そんな人が、どうしてあたしに話しかけてくるんだろう。