ある日、パパになりました。

葵の学校生活

時間は戻って、咲が校舎に入った頃、葵も高等部校舎の前に到着した。正門をくぐり、昇降口に向かって歩こうとした時、後ろから、
「あ〜ちゃ〜ん!!」
と声と同時に抱きつかれた。
「うわっ!?」
前に倒れそうになるのをどうにか堪える。葵は後ろを振り返らずというか振り返れずに、
「もう、りんちゃん。なにするのよ!」
後ろから抱きついてきた女の子は倉田加梨。小等部から一緒でいわゆる腐れ縁というやつである。なんだかんだで高等部まで一緒なのだ。まぁ、卒業後は別れると思うけど(笑)。
「あ〜ちゃん、一つ聞きたいことがあるんだけど――」
「藪から棒になによ。まぁ、いつものことだけど。それで?」
大体聞かれることはわかる。おそらく、咲のことだろう。さて、どう答えたらいいものか。親戚の子?姪っ子?お兄ちゃんの娘?うーん、あれ、最後の方でよくない?考え込んでいると花梨が口を開いた。
「えっとね、今日は生徒会の仕事ってある?」
「うん、今朝一緒に歩いていたのはお兄ちゃんの娘だからね」
私の言葉を聞いた花梨が黙ったというか、固まった。あれ、あれれ、私って、何か変なこと言ったかな…!?混乱した頭で花梨に聞き返した。
「りんちゃん、悪いんだけど、もう一回言ってくれないかな・・・?」
しかし、その願いに返答は無く、さっきまで元気で明るかった花梨とは、打って変わって、暗く落ち込んでいる(黒いオーラが見えそうなほど)花梨がいた。そして、ブツブツとなにか呟いていた。
「くっそ、どこの馬の骨だか知らない女に取られるなんて。ずっと、私が狙っていたのに。まぁ、作家ってそれなりの玉の輿だし、人気あると思うけど・・・ぐぬぬ・・・ブツブツ」
「りんちゃん、大丈夫・・・?」
葵に呼ばれ、はっと、花梨は我に返った。
「あ、うん。大丈夫。大丈夫。気にしないで」
花梨は笑って誤魔化した。そして、続けて、
「あ〜ちゃん、それで、お兄さんの彼女って――」

キンコーンカンコーン

花梨の言葉を遮ってSHRの五分前告げるチャイムが鳴った。
「あっ、りんちゃん。チャイム鳴っちゃった!急ご!」
「あ、うん・・・」
そう言って、二人は駆け出した。(玄関の辺りには既に生徒の姿は無く、二人だけだった。話に夢中になって気付けなかったらしい)
学期初めの諸行事が終わり、放課後。葵は、咲との待ち合わせ時間も迫っていたので、急いで教室を出ようとした時に、花梨に呼び止められた。
「あ〜ちゃん、ちょっと待って」
「どうしたの、りんちゃん。その、今日はちょっと急いでいるんだけど」
「え?何か予定あるの?」
「う〜ん、予定って言うほどでもないんだけどお兄ちゃんから頼まれていることが」
今日は昼から、優羽が編集部の方に出かけていて、咲ちゃんの昼食を作る人がいないから、葵が作ることになっているのだ。
「それって、私がいても大丈夫なやつ?」
花梨からの急な提案に、一瞬驚きながらも、今朝の誤解を解くには、咲ちゃんに合わせるのもありかもしれない。その答えに行き着き、
「うん、いいと思うよ。多分」
と返し、咲との待ち合わせの場所に向かった。
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