囚われのサンドリヨン ~御曹司様のご寵愛~【番外編を追加しました】
私は診療所の裏の浜に腰掛けて、作ってきたお弁当を広げた。
昼休みには、ここで遠くの海を見るのが日課になっている。

ザザーン…

内海の波は、緩やかにいつも凪いでいる。
島と本土を行き交うフェリーが煌めく波を分けてゆく。
時折、ポーっと汽笛を鳴らす。

遠くにタンカーが一艘。東京湾へも寄るのだろうか。

パラパラパラ…
今日はヘリコプターも飛んでいる。


一昨日だったか。
待合室のテレビに、あの人が写っているのを見た。
直ぐに先生に呼ばれたから内容は分からなかったけど……

やはりまだ少し辛い。

見ればつい、思い出してしまうから。

思えばあそこで過ごした日々は、あまりに忙(せわ)しくきらびやかで、夢物語のようだった。

恋のお相手は、美しい夢の王子様。
最初はとても意地悪で、怒られて踏みつけられて、束縛されて。

なのに後には、
狂おしいまでの愛情を惜しみなく注がれて、戸惑う私はいつでも翻弄されていた。

ぎゅっと自分の両腕を抱いた。
一目見ただけなのに、いつまでも熱は引いてゆかない。
あの人の無邪気な笑顔も、芯まで融かす甘い声も体温も、身体全部で覚えている。


ザァァァァン……

小さく波が打ち寄せた。


この穏やかな景色は、私が生まれるずっと前から変わらずに悠かな時を刻んでる。

それから見れば、私の心のさざ波など、小石が跳ねたほどのコトでもないんだろう。

太古から、無数の恋人達の悲恋を波間に呑み込んだであろう海___

私の切ない想いも、いつかはこの中に溶けて消え、癒えていくんだろうか。
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