契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】
……どうしたんだろう。
様子を窺っていると、すぐにハッとひらめいたように顔を上げた。それから妖しく瞳を細め、私に不敵に微笑んだ。
「来なかったらキミをクビにする」
「ええっ!?」
ま、待って……総本部長ってこんな人だったの!? これが総本部長の素顔?
丁寧なメールや腰の低さからは考えられない脅しに、混乱する。
あまりにも衝撃的な総本部長の一面にショックを受けていると、彼は訝しげに眉を寄せた。
「……あれ、響いてない? ……変だな」
ポツリと呟いて首裏をかく。それからズボンのポケットに手を入れて横柄な姿勢になると、私をジロリと見下ろしてきた。
「キミに拒否権はない。二十一時に、この店に来るんだ」
「いやっ、あの……」
時間の希望は聞いてくれたみたいだけど、あまりにも一方的な誘いを受け入れることはできない。
「……反応薄いな。じゃあ、こっちかな」
返事に困っていると、今度はツンとそっぽを向き、不機嫌そうな……でもかまってほしそうな複雑な表情を作る。
「別に絶対来てほしいとは言ってないだろ。……ただ、ちょっと話がしたいだけだ」
「はぁ……」
私は呆気にとられていた。
……なんなんだろう、この人。
真面目で紳士だと思っていた総本部長が、急に強引になったり、俺様になったりツンデレになったり……。
もう、どれが本当の総本部長の性格なのかわからない。ただ、呆然と立ち尽くしてしまう。
そんな私を見た総本部長は、焦ったように唇を噛みしめた。
「こういうタイプでもないのか。まずいな……。とにかく話を聞いてほしいんだけど、このままじゃ昼休みが終わるな……」
総本部長がシルバーの腕時計に視線を落とす。時間を確認すると、真剣な眼差しで私を見つめてきた。
「瀬那さん……キミだけが頼りなんだ。助けてほしい」
「うっ……そういう言葉には弱いんですけど……」
〝頼りにしてる〟〝助けてほしい〟という言葉は、私の世話焼きな性格を一番刺激する。
「なんだ……そういうことか」
私がうろたえていると、総本部長がクスッと笑った。
「な、なんですか?」
総本部長の笑みに意味深なものを感じる。
少し驚戒していると、彼は首を振った。
「いや、こっちの話だ。それより、俺を助けると思って話だけでも聞いてくれないかな? 頼むよ」
ああ……また〝助ける〟〝頼む〟の二連発……。
「う……は、話だけなら……」
頼られるとなんとかしてあげなくちゃ、なんて思っちゃうんだよね……。こういうところが、付き合った人をダメにしてきたんだろうな。
私がうなだれるように頷くと、総本部長はパッと顔を明るくした。
「ありがとう。……すごく助かる。それじゃ、二十一時に。楽しみにしているよ」
私に爽やかな笑顔を向けると、颯爽と会議室を出ていく。
「あっ、あの……」
私が引き止める声は届くことなく、会議室の扉が閉まった。
「話って、なんなんだろう……」
しかも、ダメにして……なんていう変なお願いまでされた。
よくわからないまま、会う約束だけしたけれど、本当にこれでよかったのだろうか。
でも、総本部長困ってるみたいだったしなぁ。
それに、この店のライティングを一度じっくり楽しみたいと思っていた。ひとりじゃ入りづらい店だし、値段が値段なだけに気軽に友達を誘えない。こんな機会がないと行けないかもしれない。
「コンペも近いし、勉強になるよね」
いろんなところへ行ってライティングを見るのは、ひとりで考えるよりいいはずだ。
「迷ったところで約束はしちゃってるし。行くしかないか」
ため息をついて時計を見ると、あと二分で昼休みが終わるところだった。
「それにしても総本部長って、どういう人なんだろう……」
疑問に思いながら、設計部のオフィスへ戻ることにした。