契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】


「もちろん、キミが〝社内恋愛をしない〟と宣言したことは知っている。ちょうどあの場に居合わせてたんだ」

まさかあの場に総本部長がいたなんて……。

会議室がいくつもあるし、ちょうどお昼時で会議が終わって廊下に出てきている人もいたから……充分あり得る。

焦る私にかまわず、総本部長はさらに顔を近づけてきた。

「しかし、何も“社内を恋愛しよう”と言うんじゃない。俺をダメにするために、仮の恋人として付き合ってほしいんだ」
「か、仮の恋人って……」

端正な顔で熱く見つめられると、それだけで胸の奥がトクンと跳ねる。

ただ、言っていることをすぐに理解できない。

『ダメになるから近寄るな』と言われるならともかく、まさか付き合ってダメにしてほしい、とお願いされるとは思わなかった。

「で、できません。私……そんな……」

いきなり言われても混乱する。

仮とはいえ、まさか総本部長と……しかも『ダメにしてほしい』なんていう、意味のわからない理由では付き合えない。

戸惑っていると、総本部長はスーツの胸ポケットから一枚のカードを取り出した。

「今夜、この店で待ってる」
「え?」

差し出されたカードを見ると、一軒の店が載っていた。

「あっ、ここ……」

総本部長に指定された店は、一昨年笹部さんと一緒に照明設計を担当した、カジュアルなレストランだった。

かしこまった雰囲気はなくて、服装などは気を遣わなくていい店。ただ、一級品の素材ばかり使ったスペイン料理で値段が高い。施工後に完成の確認をしただけで、オープンしてからは行ったことがなかった。

「時間、二十時くらいでどうかな?」
「いえ、二十一時くらいじゃないと仕事が……」

定時は十八時だけど、午後からは打ち合わせが二本入っているし、図面の修正が一件、器具の不具合を業者に電話して午前中の会議の報告書も上げて……。

「……って、行きませんから!」

なんだか強引に約束させられそうになり、慌てて断る。

総本部長は顎に手を当ててうつむき、少し何か考え始めた。


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