契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】
午後からの仕事は想定通り大量で、終わったのは二十一時ちょっと前。
総本部長と待ち合わせている店には会社の最寄り駅から電車一本で十分。少し遅れるけれど、大体の時間には着きそうだ。
連絡先、聞いておけばよかったかな……遅れることも言えないや。
一方的な約束だったのでどうしようもなかったし、帰っているならそれでもいいけれど……。
総本部長から指定されたレストランは、降車駅から徒歩三分のところにある、七階建てのモダンなビルの三階に入っている。
あー……ここ、業者と揉めたところだ。どっちのライトがいいか、深夜まで話し合ったんだよね。このエレベーターホールはクライアントもすごく気に入ってくれたんだった。
自分が関わったビルだけあって、いろんなことが思い出される。懐かしい気持ちになりながら、エレベーターに乗り込んでレストランへ向かった。
三階に到着し、エレベーターから降りると、すぐに入口があった。
店員に総本部長の名前を告げて、案内されるままに店内を歩く。
このレストランの照明も、笹部さんと私が担当した。
普通ならビルの設計は担当しても、中に入るテナントの内装は関わらない。だけど、このビルのライティングを見たレストランのオーナーから、『うちの店も設計してほしい』と熱心に言われ、特別に請け負ったのだった。
わっ……やっぱりキレイだな。
歩きながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
オーナーからの依頼は〝樹海をイメージしたライティング〟だった。
笹部さんはその依頼に、通常なら天井からぶら下げたり埋め込んだりして設置する照明を、天井の裏に設置した。そして天井の板に細かな穴を無数に開け、木漏れ日の空間を演出したのだ。
計算され尽くしたライティングは店内をほどよく照らし、幻想的な雰囲気を演出している。
一応、私も担当者として関わっているけど、全部、笹部さんのアイデア。男らしさ溢れる肌の色や、季節を無視した格好をする無頓着さからは全く想像できない、繊細なデザインだ。
総本部長……遅刻したから怒ってるかな?
腕時計を見ると、すでに二十一時を十分過ぎている。ドキドキしながら案内してくれる店員のあとに続いた。
案内されたのは一番奥にある、衝立で区切られた半個室だった。
ヒョコッと中を覗くと、難しい顔をした総本部長が天井を見上げながら座っていた。