契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】
「実は、社長退任後の後継者について……今、会社と閂家で揉めている」
「えっ、そ……そうなんですか……」
こんな話、私なんかが聞いていいのかな。美味しい料理が急に喉を通らなくなって、コホンと咳き込んだ。
そんな私にかまわず、総本部長は私をじっと見つめて口を開いた。
「それでキミに力を貸してほしいんだ」
「わ、私に?」
思わず声が裏返る。
人をダメにするというウワサまで流れている私が、会社の後継者問題に力を貸せるなんて考えられない。
「俺も閂家も専務である兄の汰一が社長になることを望んでいる。しかし、会社の役員は俺が社長になることを望んでいて……ズレが生じているんだ」
「それは、まぁ……私も役員の方たちに同意見ですけど……」
差し出がましいと思いつつ、つい口にしてしまう。
総本部長のお兄さんである専務は総本部長と違って、いいウワサをまったく聞かない。それどころか、御曹司という肩書きを使ってたくさんの女性を口説き、遊んでばかりいるようだ。
実際、口説かれたという受付嬢がカフェテリアで自慢げに話しているのを、聞いたことがある。
それに、何度かテレビ朝礼で見かけたことがあるけれど、挨拶はおざなりだし、ただ原稿を読まされているだけのような態度だった。
外見は総本部長と同じく、惚れ惚れするほどカッコいい。むしろ、黙っていると堅物にも見える総本部長と違い、柔和な顔立ちで人に好かれそうな雰囲気。
なのに社内の評判はよくないから、社長には向いていないんじゃないかと思う。
「役員の方たちが言われるくらいですし、年齢じゃなく実力主義で……総本部長が社長になられたらいいんじゃないんですか?」
「いや、それじゃダメなんだ。両親や親戚……閂の家が、兄が社長になることを望んでいる。古いと思われるかもしれないけど、そういう考えなんだ……閂家は」
総本部長はますます表情を曇らせた。
「閂家……」
閂建設は創業者が明治時代に大工の店をかまえた頃から続いている、歴史ある会社。古くからのしきたりとして、閂家やその親戚にはそういった考えが根強く残っているのかもしれない。
「もちろん、俺も同じ考えだ。……小さい頃から兄は『閂家本家の長男だから、跡取りだから』……と大切に育てられてきたんだ。次男の俺は両親から『大きくなったら兄の右腕となるように、何かあったら兄を守るように』……そう、懇々と言われてきた。……社長になった兄を支えるのが俺の役割なんだ」
総本部長は強く言い切った。
「役割……」
その考えには、少し共感できてしまった。