契約彼氏はエリート御曹司!?【試し読み】
「初めまして……か」
「えっ?」
挨拶がおかしかったかな……。
私が首を傾げると、総本部長は唇に優雅な笑みを浮かべて「いや」と言葉を濁した。
「突然呼び出したりして、申し訳ない」
礼儀正しく、頭を下げてくれる。腰の低さも完璧だ。
「いえ。あの……どういったご用件ですか?」
どうか、ウワサのことではありませんように……。
ドキドキしながらたずねると、総本部長が神妙な面持ちで話しだす。
「用件の前に、キミに聞きたいことがある。いきなり失礼だけど……今、彼氏はいるかな?」
「え? い、いませんけど……」
会って早々プライベートな質問?
や、やっぱり社内と取引先の男には手を出すな……とか?
不安になっていると、総本部長は唇にフッと安堵の笑みを浮かべる。
「なら、よかった……用件というのは、実はキミに頼みたいことがあるんだ」
そう言うと、距離をグッと詰めて、顔を覗き込んできた。
黒々とした総本部長の瞳に、私の顔が映り込みそうなくらいの距離で見つめられる。
わっ……ち、近い! ていうか、至近距離のイケメンは心臓に悪い……。
ドキッとしながら、思わずあとずさった。
「な……なんでしょうか?」
『頼みたいこと』なんて言われると、聞かずにはいられない。
戸惑いながらたずねると、総本部長がゆっくりと口を開く。
「俺をダメにしてほしい」
「……へ!?」
思わず間抜けな声が出る。
そ、総本部長……何言ってるの……?
あまりに突拍子もないお願いに、目を何度もまたたかせてしまう。
総本部長の格好をした別人かとバカみたいなことを思ったけれど、何度瞬きしても目の前にいるのは、総本部長に間違いない。
「キミは付き合った男をダメにしていると聞いた。……お願いだ、俺をダメな男にしてくれないか? ……いや、俺と付き合ってほしい」
思考が完全に停止している私にかまわず、総本部長は矢継ぎ早にしゃべる。
その顔はふざけているわけではなく、真剣そのものだ。
思った通り、総本部長の耳にもウワサは届いていた。
こんなに広まるなんて、私って本当に男の人をダメにしちゃうのかな……。
「む、無理です、できません……付き合えませんよ! 総本部長をダメにするなんてできません。それに私……社内恋愛はもうしないって決めましたし」
自分が誰かをダメにするということを自覚するのは、苦しくて胸が締め付けられる。
しかも、総本部長が私のサゲマンのウワサを耳にしていたとはいえ、こんなお願いをしてくるなんて意味がわからない。
声を詰まらせながら断るけれど、総本部長の顔つきは変わらない。