若の瞳が桜に染まる
触れた手から緊張が伝わってるかもしれない。
でも、恥ずかしいとか照れくさいとか、そんな俺の都合はどうでもいい。
どうして今まで、こんなに大事なことを伝えてこなかったんだろう。

一番に大事にしたいものが何なのか、ずっとはっきりしてたのに。

「好きだよ。

結婚する前からずっと。

あんな形で一緒に暮らすことになったから、無理に夫婦らしくして日和を困らせたくないって思ってきたけど…、もし、日和が少しでも俺と同じ気持ちでいてくれるなら、もう二度と、嫉妬なんてさせないよ」

くっと、日和を見つめる我久の瞳に力がこもった。

すると、それに返すように日和は触れている手を軽く握った。そして、頬を染めながらきょろきょろと目を動かす。

「えっと…」

我久は、何か言おうとしている日和をゆっくりと待った。

「いいの…?

……我久のこと、好きだって言っていいの?
人質の私が、そんな…、踏み込んだことしていいの…?」

紡がれた言葉はひどく不安そうで、そのまま消えてなくなりそうなほどに儚かった。
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