若の瞳が桜に染まる
あれ?
なんだろう。

縁側の端に見慣れない鉢が置いてあるのを見つけた。
そこに植えてあるのはなんてことないつんつんとした細長い葉っぱで、観賞用なのかと疑問に思うほど。

「日和。あれ何?」

尋ねてみると、日和は本から視線を上げた。

「あれは、レモングラスっていうハーブ。
虫除けになるから置いてる」

「虫除け?
そんなのもできるんだ。

…虫だけじゃなくて、害を全部追い払ってくれたりしないかな」

茶島会だけではない。警察の裏切りの問題も我久の頭を悩ませていた。

そんな日々のストレスから解放されたくて、つい出てしまった無茶な理想。

それを聞いた日和は、完全に我久に視線を移した。

「大変なの?」

「いやっ、心配しないで!
厄介な同業者がいるなんていつものことだし。
警察との問題だって、こっちが不利って訳でもないから」

「…ふーん」

そう呟くと、再び本に集中しだした。

適当なことを言うもんじゃない。俺が心配かけてどうする。
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