無機質な恋模様
「これを開発したメーカーが優秀なんであって、別にコイツ自体はすごくもなんともねぇよ」

その冷たく静かなリアクションに、真奈美ちゃんは見るからにしゅん、と意気消沈する。


……テメーこの、佐々木っ。

女心がちっとも分かっちゃいないんだから。


「っと、無駄話してる場合じゃねーや」

あろうことか佐々木は、それでなくても落ち込んでいる真奈美ちゃんに追い討ちをかけるように『無駄』なんて言葉をチョイスしてぶつけやがった。

「目黒支部から電話で、ついさっき、急遽入力したデータがあるんだと。その分も出力して、今日の便に一緒に乗せて欲しいらしい」

「…あ、ハイ。分かりました」

一瞬心ここにあらずだったけれど、真奈美ちゃんはすぐに自分を取り戻し、こっくりと力強く頷きながら返答した。

さすが真奈美ちゃん。

へこむような事があっても、決してそれを引きずって仕事に支障をきたしたりはしないんだよね。

オンとオフの切り替えがきちんとしているんだよね。

OLの鏡だね。

「午後の出力の際に、目黒ももう一回出します」

「ああ。頼んだぞ」

佐々木はそのまま歩き出すつもりだったのだろうけど。

ちょうどその時、僕の中枢部分から指令が出て、否応なしに『ピピピ』と甲高い声で鳴かされた。

それで不本意にも、佐々木の足を止め、注意を引き付ける形になってしまったのだ。

「あれ?何だかいつもとは違う音が…」
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