イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
「……あなた、坂本さん、ね」


噛みしめるように苗字を口にした本庄さんは、いまだに無表情。

こ、怖いです! 私、生まれた時から坂本なんですけど!

心の中で言い訳しつつビクビクしていると、彼女は腕を組み、少しだけ考えるような間を置いてからこう言った。


「今晩、空いてるかしら。あなたと話したいんだけど」


突然のお誘いで、あからさまにギクリとしてしまう。だって話って、絶対部長とのことでしょう!?

どうしよう、こんな急に! 本庄さんがあのまま黙っているわけないと思ってはいたけど、いざふたりで話すとなると逃げ腰に……。

「今晩、ですか……!?」とぎこちなく笑いながら、どう答えようか迷う私に、彼女は少し首を傾けて言う。


「予定入ってる? ……あぁ、旦那様の夕飯作らなきゃいけないか」


わざとらしく“旦那様”を強調し、ここで初めて口元に笑みが生まれた。

しかしそれは、綺麗だけれど恐ろしくもあって、私は顔を引きつらせながら、とっさに答える。


「だ、大丈夫です!」

「じゃあ、駅前のユウヤケに七時。いい?」


“ユウヤケ”というのは、以前ふみかとも行った、オムライスが名物の洋風居酒屋だ。あぁ、いったいどうなることやら……。

にこりと笑う彼女から今すぐ逃げ出したい気持ちになりながらも、私は承諾するしかなかった。


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