ゆえん
「……もういい。修ちゃんのことなんか、菜穂さんのことなんか、もうどうでもいい。この場で忘れてやるから」
理紗の口からやっとその一言が出てきた。
修二も、そして理紗をここへ連れてきた冬真もこの言葉に救われた気がした。
カフェの入り口には、空席がないか探している学生たちの顔があった。
腕時計を見て、修二は冬真の顔を見た。
「冬真の話は何?」
「俺の話?」
不意に話を振られたが、ここに来た理由は今話していたことが全てで、最初から冬真の話などなかった。
修二は冬真の表情で、彼がここに来た目的は理紗のことだけだったのだと気付いた。
「今度は沙世ちゃんとお前の愛娘に会わせてくれよな」
濡れたスーツをおしぼりで拭きながら、修二は笑顔を見せた。
冬真は心の中で言うべきか迷い、そして決心した。
「お前には言ってなかったけど、沙世子と娘の真湖はもういないんだ。四年前に交通事故で……もういないんだよ」
出来れば口にしたくない言葉だった。
昨日の電話では言うことが出来なかった。
だか、理紗を見ながら思った。
自分も囚われ続けていては駄目なのだろうと。
「まさか、そんな……。四年も前に……。悪い、俺、何も知らなくて」
「俺が話してないんだから、知らなくて当然だよ。気にするな」
言葉を返しながら冬真は、今この場所で三人の口から「四年前」の言葉が出てきたことに不思議な糸が纏わりついているような錯覚がした。