キミのコドウがきこえる。

そうと決まったら、私の頭の中は超高速で回転し始めた。

二階へ駆け上がると、部屋の机の上にあげて置いた薄手の赤い手帳の最後のページを開き、手帳にくっついているペンフォルダーからペンを抜き、今からやるべきことを書いた。

あんなに渋っていた『音羽に帰る』という選択肢が、今からやるべきことの文字が増えていくたびに、すとんすとんと体の中にちょっとずつたまっていく感覚がした。



『音羽に帰ってきてもいい?』なんて言葉は、もういらない。



手帳の代わりに机の上に置かれた私の名前入りのバチが、その答えだって分かっているから。

今住んでいるところの引き払いの手続き、それにともなう諸手続きを思いつける分書き出していたら一人でやり切るにはどれくらい時間がかかってしまうんだろうと思ったけれど、これを終わらせておかないとすっきりと前に進める気がしなかった。

なんとなく過ごしてきた七年間に蹴りをつけるんだ。


手帳をパタンと閉じて「よし」と気合を入れて髪の毛を後ろで一つに結わえて部屋を出た。







引っ越しの手続きは滞りなく終わった。

すべて終わらせて音羽に帰る三日前には、響子ちゃんとお母さんと成美が観光ついでに手伝いに来てくれて、助かった。

こっちで使っていた家具はすべてリサイクルショップに売ったり捨てたりして、向こうにもっていくものはほとんど残らなかった。

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