キミのコドウがきこえる。
翔太が仕事に戻ってしばらくすると、仁成兄ちゃんとお父さんが帰って来た。
お母さんが言っていた通り、仁成兄ちゃんの手には私専用と思われるバチが握られていた。
お父さんが持ってこないというのが、なんとも不器用な彼の性格をよく表していた。
いつもならそんなお父さんを見たらイラッとしてしまうのだが、今は不思議と「それがお父さん」という寛大な気持ちで許せてしまっているから不思議だ。
「店に行ったら『ちょうど出来上がってましたよ!』って言われたんだけど、前から頼んでたのか?」
仁成兄ちゃんは相変わらず空気が読めないみたいで、後頭部を勢いよくお父さんの分厚い手の平ではたかれていた。
「お父さんありがとう」
仁成兄ちゃんから受け取ったバチは、お父さんが使っているバチよりも少し細めで軽かった。
「軽いんだね」
「そっちの方が叩きやすいだろう。井上君に迷惑かけないようにな」
お父さんはそれだけ言うと、食堂へ戻っていった。
よくよく見ると、その太鼓のバチには『成子』と名前が入っていて、まるで小学生の時に太鼓を叩く役に決まった時のように興奮した。
「私の、バチ」
太鼓を叩くときみたいに片方ずつ両手に握って、ぎゅっと力を入れてみた。
目の高さより上にあげ、大太鼓を叩くときのように構えてみた。
あの時の夢を今度こそ叶えるんだ。