サマースキャンダル×× 〜Episode,00〜【短】
「本当になんでもいいわけ?」

『だから、常識の範囲内だったら、って言ってるでしょ。車とか言わないでよ?』


念のために確認してみると、有紀が冗談めかして笑った。


「そんなんじゃない。というか、別にお金はかからない」

『なにそれ?あんたが物以外で私になにか頼み事するなんて、今までほとんどなかったじゃない。なんか怖いんだけど』


怪訝な声になった有紀は、俺の意図が読み取れないのだろう。

俺が有紀に頼み事をすることなんて、これまでにも滅多にない。そもそも、有紀が俺の頼み事を聞いてくれるような姉じゃないことは誰よりもわかっているから、俺の中には有紀になにかを頼むという選択肢はないのだ。

唯一、うちでは昔から家族の誕生日にプレゼントを渡すのが恒例になっているから、この時だけ欲しい物をリクエストするくらいだった。


『まぁ、いいわ。私ができることなら頼まれてあげる。……で、なにをして欲しいの?』


なにかを察したらしい有紀の質問に、息をゆっくりと吐いた。

これを口にすることは、有紀に自分の気持ちを教えてしまうのと同じこと。
だけど、俺にはこうする以外の選択肢がなくて、このためならば恥も外聞も気にしてはいられない。


姉に弱味を見せたくないというプライドに苛まれながらも、意を決して口を開いた。


「遥さんに会わせてほしい」


緊張で拍動が速くなり、平静を装ったはずなのに早口になってしまった。
恐らく聞き取れたとは思うけれど、電話の向こうにいる有紀は驚いているのだろう。


『……なにそれ』


しばらくすると、ようやく有紀が静かに言葉を零した。
ただ、それは疑問を紡いでいるようでいて、俺の意図を理解している声音だった。

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