サマースキャンダル×× 〜Episode,00〜【短】
本当は、理由なんて訊くまでもないはず。
俺がこんなことを頼む以上、理由はひとつしかないことくらい、有紀にはわかっているはずだから。


「そのままの意味だけど」

『意味を訊いてるんじゃない。理由を訊いてるのよ』


敢えて強気で返したけれど、有紀はいつになく真剣な声音になった。こうなった時の有紀は一筋縄ではいかなくて、俺はますます不利になっていく。


「遥さんに会わせてくれるだけでいいんだ。俺がそっちに帰るからさ」

『私はそんなこと訊いてない。遥に会いたい理由を訊いてるの』


どうしても訊くのかよ!


声にしてしまいそうだった言葉を心の中に留めたのは、口にした瞬間に電話を切られてしまうと思ったから。
二十年以上も姉弟でいれば、それくらいの予測はつく。


『遊びたいだけなら他を当たりなさい』


冷たい口調の有紀に、突き放されたのだと気づいた。こうなると取りつく島もなくなるのは、時間の問題だ。


『遥はあんたみたいなのはタイプじゃないし、あんただって私に頼まなくても彼女くらい作れるでしょ』

「彼女が欲しいから言ってるわけじゃないんだけど」

『じゃあ、理由を言いなさい』


姉を相手に、“好き”なんて言葉を簡単に言えるはずがない。
恥も外聞も気にしてはいられないけれど、こればかりはさすがに抵抗があった。


『……大切な親友をガキなんかに託せるか』

「はぁ!?」

『これ以上話しても無駄でしょ。今年の誕生日は私が見繕った物を送るわ』

「ちょっと待てって!俺の話を──」


俺の懇願も虚しく、電話は一方的に切られてしまった。


そして、その後もまったく取り合って貰えず、誕生日には宅配便でキーケースが届いた──。

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