サマースキャンダル×× 〜Episode,00〜【短】
あぁ、そうか。俺は──。


胸の奥が苦しくなって、息が上手くできなくなりそうで。
決して悲しいわけじゃないのに、泣きたくなるほど切なくなって。

その感情の正体に気づいた時、口もとから微笑が落ちたのがわかった。


これとよく似た感覚は知っている。
だけど、こんなにも胸を焦がすような感情を味わったことなんてない。


好き、だったんだ……。

たぶん、“あの日”からずっと──。


気づかないうちに、恋をしていたなんて。
その気持ちにずっと気づかないで、今日まで過ごしてきたなんて。


「ばかだな……」


声にならないほど小さく呟いた言葉は、たぶん俺以外の誰にも聞こえることなく消えた。


しばらくすると遥さんのスピーチは終わり、少し離れたテーブルに戻った彼女の姿は他の招待客に紛れてしまって、ずっと聞いていたかった声が聞こえてくることはなかった。


挨拶回りをした時は、どうやら遥さんは席を立っていたらしい。
式が終わる頃に、母親から彼女が受付をしてくれていたことを聞いたけれど、有紀の友人に囲まれていたせいで気づかなかった。

そんな俺を置いて両親がとっくに遥さんにお礼を伝えていたと知り、チヤホヤされていた数時間前の自分自身が腹立たしくなった。


くそっ……!


結婚式が終わると、一目散に遥さんを探した。
華美な女性たちの中にいても、会場にさえいてくれれば彼女を見つけられる自信はあった。


少し時間は掛かってしまったものの、無事に友人たちと談笑している遥さんを見つけられた。
彼女の姿を見た瞬間、動けなくなってしまいそうだったけれど……。もう“あの時”と同じことを繰り返したくなくて、必死に足を動かして一歩一歩近づいていった。

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