なみだ雨
赤ちゃん用のベッドにおもちゃ。
玄関脇にはベビーカーが折り畳められている。
いつ生まれてもおかしくない大きさのお腹を
さすりながら成海はソファに座っている。
ソファの前のテーブルには、黄色い靴下。
「男の子ですか?女の子ですか?」
練の家に入り、練からお茶を出され、
初めて口を開いて呟くように言った。
消え入りそうな声で、少し震えている。
「聞いてないんです」
同じような小さい囁くような声で練が答えた。
沈黙。
「あの、昨夜は申し訳ありませんでした。わたし洗濯を…」
「わたしが洗いました」
テレビを見たままはるかの声を押しのけて成海が言った。
はるかは横顔を見つめる。
気まずい雰囲気とぎこちない雰囲気、逃げたい雰囲気を、お茶をわざと大きな音で飲んだ航平によってぶち壊される。
その音に敏感に反応した成海。
それに反応する練。
「ご迷惑おかけしま…」
「はい、本当に」
覆い被さる成海の声。
カチ、カチ、カチ、部屋に響く秒針を航平は頭の中で数える。