なみだ雨
こたつから半分以上身体を出して
大の字になって寝ている翔太のそばを
踏まないように通って、ベランダに出る。
携帯を開くと不在着信がこの1時間で42件。
全部おじさんのものだった。
はるかは小刻みに震え始めた手を、
震える手で握りしめる。
ピリリりりりり…ピリリりりりり
いきなり、鳴り始める。
落としそうになる携帯を持ち直して
電話に出た。
練は遠くでそっとはるかの様子を伺う。
「もしもし…」
「あぁ…はるかぁ…お腹空いたよ…インフルみたいでさ、動けねえんだ…」
元気がない声だ。
また、開口一番怒鳴られるかと思っていて
おもわず、大丈夫ですか?と声をかける。
「明日でいいから、なにかさっぱりするもの、買ってきてくれないかな。ゼリーとか」
「病院は…」
「しんどくって歩けねぇ…」
いつにもなく、弱そうな声のおじさんに
母性くすぐられる。
「…わかりました、明日の朝…」
明日の朝
『 行きます』、『 帰ります』
どっちをいうべきか口ごもる。
「助かる、待ってるよ」
おじさんはそう言うと、電話を切った。
「誰からですか?」
もうお皿を洗い終わったらしい練が、
タオルで手を拭きながら声をかける。
「おじさんからです。インフルエンザにかかったみたいで」
「行くんですか?」
帰るんですか?と聞いてこなかった。
もう、はるかの居場所はここでいいと
いうことなのだろうか。
首を縦にふる。
練の心配そうな表情がさらに強くなる。