なみだ雨




こたつから半分以上身体を出して

大の字になって寝ている翔太のそばを

踏まないように通って、ベランダに出る。



携帯を開くと不在着信がこの1時間で42件。

全部おじさんのものだった。

はるかは小刻みに震え始めた手を、

震える手で握りしめる。



ピリリりりりり…ピリリりりりり


いきなり、鳴り始める。

落としそうになる携帯を持ち直して

電話に出た。


練は遠くでそっとはるかの様子を伺う。


「もしもし…」

「あぁ…はるかぁ…お腹空いたよ…インフルみたいでさ、動けねえんだ…」

元気がない声だ。

また、開口一番怒鳴られるかと思っていて

おもわず、大丈夫ですか?と声をかける。


「明日でいいから、なにかさっぱりするもの、買ってきてくれないかな。ゼリーとか」

「病院は…」

「しんどくって歩けねぇ…」



いつにもなく、弱そうな声のおじさんに

母性くすぐられる。


「…わかりました、明日の朝…」



明日の朝

『 行きます』、『 帰ります』

どっちをいうべきか口ごもる。


「助かる、待ってるよ」


おじさんはそう言うと、電話を切った。



「誰からですか?」

もうお皿を洗い終わったらしい練が、

タオルで手を拭きながら声をかける。


「おじさんからです。インフルエンザにかかったみたいで」

「行くんですか?」



帰るんですか?と聞いてこなかった。

もう、はるかの居場所はここでいいと

いうことなのだろうか。


首を縦にふる。

練の心配そうな表情がさらに強くなる。


< 54 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop