なみだ雨





ご飯も残り少なくなってきた頃、

練の携帯が音を出して震えた。


口の中に放り込んだたくあんを

ばりばりと噛み砕きながら、

練は通話ボタンを押した。



『もしもし練〜?』


女性の声だ。


『ねぇいまどこにいるの?練の家に行ったらいないんだもん』


軽く俯き始めたはるかを見てから

練はその場を立ち上がる。


「ごめん成海。今日約束とかしてた?」

『ううん、会いたくなっちゃって』



はるかから離れて電話を続ける。

「うん、わかった、もうちょっとしたら帰るから、うん」


はるかの方に戻ると、

はるかは空いたお皿を流しに運んでいた。


「すみません、僕ちょっと…」

「大丈夫です」


はるかは素っ気なくそう答えて

スポンジを掴む。


「それじゃあ、菊原さん、また」


なんとなく変な空気を感じつつ、

練は逃げるように靴を履く。


カチャカチャとお皿を洗う音が聞こえるばかりで、

お見送りはない。


玄関を開けると同時に、


「はるかです」


という小さな声が聞こえた。



「はるかです、わたしの名前」


一瞬目が合った。


練は小さく会釈をして、

はるかの部屋を出ていった。



< 84 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop