なみだ雨
なかなか降りようとしない成海。
外からドアを開けて成海を降ろす。
ぱっとしない表情を浮かべているのは、
緊張しているからなのだろうか。
大丈夫、ついてるから。
そういう意味を込めて
練は、成海の腕を軽くさすった。
さあ、入ろう
車の鍵をしめようとしたとき、
道路の向こうにふと視線を向けると、
見慣れた上着を着たはるかの姿が、
一瞬、見えた気がした。
本当にその場所にいたのかわからないのに、
なんとも言えない後ろめたさが、
練の心を重く暗くのしかかってくる。
「練?」
成海が声をかけてきた。
早い速度で走っていくトラックたちの
一瞬の隙間。
はるかはもうそこにはいなくて。
上着の灰色が目の端にとらえられて。
弾かれたように練は
その場を離れようとした。
背中を向けて走っていくはるかを
今ここで追いかけなくては、
もう2度とこっちに笑顔を向けてくれない
気がして。
「はるか」って呼べない気がして。
でも、それは叶わなかった。
成海が、俺の上着の端を
震える指先で掴んでいたから。