その瞳をこっちに向けて


「言っときますけど、仁先輩を見る前に偶然美音さんに会ったんですからね!偶然です!」

「お前、……またストーカーって」

「ストーカーしてませんよっ!その前に偶然美音さんに会ったんです!偶然!」

「いや、でも。……見に行く気だったんだろ」

「そ、それは、……そうですけど」


明らかに偶然を強調する事に意識がいって墓穴を掘った気がする。

結果。


「そろそろマジで止めろよな」

「わ、分かってますよ」


真顔でそう言う中畑先輩からプイッと顔を背けた。


 二人並んで美音さんの居る橋へと歩を進める。そこまで離れていなかった為に、少し歩けば橋の上にいる美音さんの姿が目に入り、美音さんの名前を呼ぼうと口を開いたその時。


美音さんの側に黒の傘を差した人が駆け寄って来たのを見て、開いた口をゆっくりと閉じた。黒の傘から少しのぞく目を惹かれるその顔に息を呑む。


美音さんに駆け寄って来た人は予想通りというか、やっぱり仁先輩で。


その事に苦笑いを漏らした。

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