その瞳をこっちに向けて


「ほんとですか?」



本当に『ありがとう』って私が思ってるのは伝わってますか?



 中畑先輩の中の私のイメージが悪いのを知っているからこそそういう問い掛けだったのだが。目の前の中畑先輩といえば、無言で顔を真っ赤にさせるだけ。


そして数秒間の沈黙の後、

「顔、……近い」

と呟くとプイッと私から顔を逸らした。


「ああ。すいません」


顔が近くて不快だったのかと思って今居る場所から一歩後ろに下がると、わしゃわしゃっと中畑先輩が自分の髪を乱し出す。


「別に近いのはいいんだけどさ。……俺の理性が持たねぇの」

「はぁ?」

「お前の……せいだから」

「はぁ?」


ポツリ、ポツリと漏らされるその言葉の意味が分からずに首を傾げた所で、中畑先輩がソファーから立ち上がった。


「飲みもん持ってくる。そこ座っといて」

「はぁ……」


さっきから『はぁ』としか言ってない気がする。

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