その瞳をこっちに向けて
意を決してスーっと一度大きく空気を吸い込むと、息を吐き出すと共に言葉を紡ぐ。
「でも、その欲もやっとお別れ出来そうです」
「……えっ?」
一瞬反応が遅れたのは、きっと予想していなかった言葉だったからだろう。
だって、私は中畑先輩の中で仁先輩のストーカーだったんだから。いや、実際中畑先輩の中だけじゃなくて一般的にストーカーだったかもしれないけど。
でも、今口にした言葉に嘘はない。
「二人のあんな姿見ちゃったら、なんかほんとにもうダメだなぁって。前に中畑先輩が言ってた『諦められる時』がきたって感じです」
「そっ…か」
「そうなんです」
仁先輩の隣には、私じゃなくて美音さんにいて欲しい。
あの二人の姿を見て、そう自然と思っていた。
だからかあの時、恋の終わりを告げる鐘が頭の中でゆっくりと、でも大きな音をたてて鳴った気がしたんだ。
ズズッと最後に残っていたココアを口へ運ぶ。そんな私を中畑先輩は、何を言うでもなく優しい目でじっと見つめていて。
その事に何故かホッと息を吐き出した。