その瞳をこっちに向けて
暫く無言で歩を進めていると、その無言状態に痺れを切らしたのか中畑先輩が口を開いた。
「で、何処行くんだよ?」
丁度その時、見えてきた目的の場所を指差す。
「あっ、そこですよ」
さっきは居た二人はもうそこには居ない。だからか、今はまるで何もなかったような雰囲気を醸したしているが、私の頭の中ではあの二人のドラマの様なワンシーンが焼き付いている。
「さっきの橋じゃん。何でまた?」
「ここでやりたい事がありまして」
「やりたい事?」
中畑先輩が首を傾げたがそれには答えず、橋の真ん中に着いた所で足を止めた。橋の上から見下ろす川の水はさっきまでの雨のせいか、濁流が渦巻いている。
橋の手摺についた水滴をチラッと見るとそれを手で払う。そして、そこにグイッと身体を近付けた。
真下にある川。そこに視線は向けたままポケットに手を突っ込むと、着替え直す時にいれていた物を取り出す。
「あっ、それ」
私の手の中の物を見て中畑先輩が声を漏らしたのを合図に、ゆっくりと中畑先輩へと顔を向ける。
そして目が合うと、ニヤッと片方の口角を上げた。