その瞳をこっちに向けて


「ちっ、違うからな!変な意味とかじゃなくて。あれだ!あれ!」

「あれって?」

「あれはあれだ!その。……枝毛があっただけだ!大量に!」

「…………」


 めちゃくちゃ動揺しながら中畑先輩が口にしたその言葉で、熱くなった顔が一気に冷めていく。



いや、そんな事だろうとは思ってましたけど。

それにしても。……この人はデリカシーというものが若干欠けてる気がする。



「あの。私も一応女ですので。そういうのは、見なかったふりして欲しいんですけど」

「わ、悪い」


申し訳なさそうに頭を下げる姿から察するに、一応失礼な事を言ったっていう自覚はあるらしい。


しゅんと項垂れた中畑先輩。


 その姿はいつもの毒気が抜けていて、小さな子供の様。だからか、思わずクスッと笑い声が漏れた。


「もういいですよ」


そう言えば、ゆっくりと中畑先輩の顔が上がる。
そんな中畑先輩の姿を目の前にしたら、どこか優位に立った気分になる。その高揚した気分のまま、ついでと口を開いた。

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