その瞳をこっちに向けて
「あっ、それと。癪ですけど、やっぱり中畑先輩に髪触られるとイケメン力のせいか、ドキドキし過ぎて胸がやたらと痛いんで止めて下さい。ほんと、癪なんですけどね」
私としては、さっきの乙女心を分からない枝毛のクレームと同じ感じでそう言ったのだが、それを聞いていた中畑先輩が驚いた様に目を丸くさせる。
「えっ……、ドキドキすんの?」
「そりぁ、しますよ。中畑先輩の顔って相当イケメンですよ。顔が近付いただけでドキドキ煩くなりますもん」
寧ろ、中畑先輩の顔が近くにあってドキドキしない女子に会いたいくらいだ。好きじゃなくても、イケメンの芸能人を間近で見てドキドキしない人なんて殆ど居ないのと同じようなもの。
冷静にそんな風に考えていると、突然グイッと目の前に中畑先輩の顔が迫ってきた。
「それって、……こんな感じ?」
ニヤッと意地悪に上がる口角を目の前に何度も瞬きを繰り返す私の心臓は、自分でも引く位バクバクと脈打っている。
「ち、ちちちち近っ!!」
「ドキドキすんの?」
ニヤつく中畑先輩は上機嫌。人がこんなにパニクってるんだから止めてくれたっていいのに、更にわざとこんな質問を投げ掛けて楽しむっていう。