その瞳をこっちに向けて


「何かオススメとかある?」

「祐だったら、『デイヴィッド・コパフィールド』とか好きかも」

「じゃあ、それ読もっと」


 中畑先輩はそんな会話を仁先輩とさらっとしているが、私の頭の中は中畑先輩への怒りで噴火寸前。



わ、私の幸せな時間が、


ーーーー消えていく。


中畑先輩、ここまで割り込んで来るなんて。



本当、…………鬼だ。



 仁先輩に勧められた本を取ってきた中畑先輩は、再び仁先輩の隣に座る。そして、本を読み出したのだが、その読んでいる時の姿勢がまた絶妙。


右手を伸ばして本を持ち、その本を覗き込む様にして読んでいるのだが、その角度が私の席から見える筈の仁先輩を中畑先輩の身体がスッポリと隠してしまうのだ。


 仁先輩を見る事すら出来なくなってしまった私に残った選択肢は、このまま諦めて帰るか、仁先輩が帰ろうと席を立つその瞬間のみを見る為にまだ居座るかのどっちか。

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