その瞳をこっちに向けて
つまり本に夢中になり過ぎて、本来の目的である『一瞬でも仁先輩を見る』をし損ねてしまったわけ。
「最悪」
ボソッと呟き、キリッと歯を噛み締める。
溢れる悔しさと失敗した自分への叱咤。
そんな気持ちが渦巻くが、もうどうしようもない現状に諦めのため息を吐くと、帰る為に鞄を手にした。その時、
「やっと、帰んの?」
そんな言葉と共に私の前へと姿を見せる彼。
その姿に思わず眉間に力が入る。
「中畑先輩何してるんですか?」
机を挟んではいるが、私の前で立っているのは紛れもなく中畑先輩だ。
ただ、私の問い掛けに答えるつもりなんてないのか、ニヤッと嫌な笑みを浮かべた。
「どんだけ集中して本読んでんだよ、ストーカー女」
「なっ、それは中畑先輩が居るせいで仁先輩を見れなかったからです!」
「堂々とストーカー発言すんな、バカ」
「ス、ススストーカーじゃないっつってんじゃないですか!」
とことん私を馬鹿にするつもりらしい中畑先輩に突っ込んだものの、返ってきたのは蔑む様な冷たい目。